栽培漁業(Fisheries Stock Enhancement)
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栽培漁業
 一般に海産魚介類は多数の卵魚仔を産むが,初期の発育過程における減耗が極めて大きい。従って,この期間を人間の飼育管理下で飼育して初期の生き残りを高め,生産された稚魚(種苗)を天然水域へ放流した上で適切な資源管理を行うとともに効率的に漁獲し,資源の持続的な利用を図るのが栽培漁業の考え方である。栽培漁業には親魚養成,種苗生産(餌料培養を含む),種苗放流の工程がある。
 海産魚介類の放流では,魚類で40種,甲殻類で11種,貝類で20種,その他7種の人工種苗が放流されている。このうち魚類9種,甲殻類5種,貝類8種,その他4種では毎年100万個体以上の規模で人工種苗の放流が行われている。
 近年,飼育水に低温かつ清浄性の特性を生かした海洋深層水が用いられマダラ,トヤマエビ(富山県水産試験場),ヒラメ(高知県海洋深層水研究所),クルマエビ(沖縄県海洋深層水研究所)の親魚養成等で実績がある。


親魚養成
 親魚養成は,適正な飼育条件下で養成された健全な親魚から,種苗生産に用いる卵あるいはふ化仔魚(甲殻類ではふ化幼生)を量的に,計画的に,かつ安定的に確保することを目的としている。産卵用親魚には,成熟した天然親魚を搬入して採卵する方法と天然稚魚あるいは成魚を採卵用親魚に養成して採卵する方法とがある。養成用飼餌料には,アジ,サバあるいはイカなどの生餌の他にモイストペレットや配合飼料などが用いられているが,栄養強化を目的に各種栄養物質等が添加されている。親魚の成熟を促進するために,ホルモン処理や環境条件(主に水温と光条件)の制御処理が行われている。成熟した親魚からの採卵方法は,自然産卵と人工授精に大別され,対象とする魚種の産卵生態等により採卵方法が選択されている。


種苗生産
 種苗生産では,健全な種苗を大量かつ安定的に生産することを目的とし,魚種ごとに適した水温,飼育密度などの飼育環境や餌の種類や質,栄養強化法などの検討が行われている。種苗生産における餌料系列は「ワムシ→アルテミアノープリウス→配合飼料または魚介肉ミンチ」が一般的であるが,魚食性の強いサワラでは初期餌料にマダイ等のふ化仔魚を用いるなど,対象とする魚種に適した初期餌料の種類や大きさの探索が重要である。また,マダイやヒラメ等の量産が可能となった魚種では,ワムシの連続培養装置や自動給餌機,自動底掃除機や魚数計等、機械化による飼育の省力化が進められている。
 生産した種苗は,中間育成を行い放流サイズまで育てると,さらに放流場所に設置した囲い網などで輸送による影響の回復,天然の環境や餌料への馴致等を目的に短期の育成を行う場合もある。

種苗放流
 放流魚には天然魚と区別できるように,外部標識(アンカータグ,腹鰭等の抜去,焼印等)や体内標識(蛍光イラストマー,耳石標識等)の装着や,人工生産魚の形態的特長(鼻腔隔壁の欠損,異体類の体色異常等)を標識として利用する。種苗放流の効果を上げるためには,放流の適地や適正サイズを検討するとともに,放流魚の漁獲への貢献(混獲率)や再捕(回収率)状況調べ,将来の事業化を目的に調査や実証試験が行われている。栽培漁業では,対象種の水産資源への加入量を積極的に増大させるだけでなく,生育場・漁場の整備を行うことで,対象種以外の水産動物をも包括した資源管理の展開を促進し,漁業の生産基盤である水産資源の安定化と増大に資することが期待されている。

(文責:堀田 卓朗 第8巻、第2号、2004年)
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