海洋深層水を原料として製造される塩分を含んだ海水氷を海洋深層水氷という。この海水氷は、実際には、真水の氷結晶と塩水の混合状態であり、氷結晶そのものに塩分が取り込まれているものではない。表層海水を用いた場合でも同様な海水氷ができるが、海洋深層水は水温が低いために少ないエネルギーで海水氷を製造できること、細菌類が少なく清浄な氷ができるという利点がある。
海水のように塩分を3.4%含んだ水では、-1.8℃から真水の氷結晶ができ始めるが、氷結晶の直径は0.1mm~0.5mmと非常に微細であり、流動性のあるシャーベット状氷となる。全体量に占める氷結晶量の割合は温度によって定まり、低温であるほど氷結晶量が増え、やがて塩水は氷結晶間に閉じ込められて流動性がなくなり、見かけ上、固体氷となる。さらに-24℃になると塩分が海水に溶解しきれず、塩化ナトリウムの水和塩として析出し、白い固体状の海水氷になる。
海洋深層水氷の融解は、製氷過程の逆をたどり、氷結晶が徐々に融解し、緩やかな曲線を描いて氷温度が上昇していく。この間、固体状海水氷はシャーベット状海水氷へと形態変化し、-1.8℃で完全に融解する。これは、通常の氷が0℃を保持しながら融解するのとは全く異なり、海洋深層水氷が0℃以下の低温を保持するのに適す所以である。
海水氷の製造は、通常の氷を製造するシステムが使用でき、過冷却方式ではシャーベット状氷、オープンセル方式では固体状氷が得られる。シャーベット状氷は、そのまま使用すれば塩分3.4%であるが、塩水を除去すれば、除去の仕方により1%~3%のものができる。オープンセル方式でできる固体状氷は、製氷速度によって氷結晶間に閉じ込められる塩水量が変化し、塩分濃度は1.4%~2.5%である。
海洋深層水氷は、専ら魚介類の鮮度保持に利用される。それは海洋深層水氷が0℃以下の低温を保持できることと、融解した水が塩分を含んでいることにある。魚介類は、その魚肉が凍結しないぎりぎりの温度で保存することが、最も鮮度低下を防ぐが、この温度は-2℃程度であり、真水氷では温度が高すぎる。また、海洋深層水氷は微細な結晶からなり、シャーベット状になるため、万遍に魚体に接触でき均一に冷却できるし、融解速度も速く、急速に魚体を冷却できるメリットがある。さらに、魚体を傷つけることも少ない。
また、真水氷は融解水と魚体との浸透圧バランスがとれず、魚体の傷みが早いが、海洋深層水氷では、塩分が1%~2%のものを使用すれば、浸透圧バランスがとれ傷みも少ない。
しかしながら、塩分濃度が高いとマグネシウムの影響によって魚の目が白濁し、固体状海水氷のように非常に低温の氷を用いると魚体を凍結させてしまうデメリットも有するので注意が必要である。
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