一般に海洋における湧昇とは、下層の海水が上層に湧出する現象で、海洋の生物生産に重要な影響を与えている。湧昇効果には、(1)下層水中に含まれる窒素やリンなどの栄養塩類を太陽光が届く上層部分(有光層)に供給し、植物プランクトンを増大させる施肥効果、(2)下層水中に沈降した生物資源を上層に運ぶ種供給効果、(3)下層の低温海水を上層に運び上層海域を冷却させる冷却効果、および(4)下層の貧酸素塊を表層に運び、貧酸素海域(青潮)を形成させる青潮効果がある。深層水利用の場合は、特に(1)と(3)の効果を指す。
この湧昇の発生源には、風や潮流、温度差、密度差、コリオリの力等がある。例えば黒潮流域の伊豆諸島では、島の下流域で渦流が発生し、深層海水が表層に上げられ、沿岸海域に栄養を供給し、水産資源を増大させている。この現象は半島でも同様で、特に局地性湧昇と呼んでいる。
また、大規模な湧昇の例としては、南米西岸やアフリカ西岸など大陸の西岸沖で見られるように、海上風による海流を補うよう、下層の深層水が表層に上昇し、光と栄養塩類を基にした食物連鎖により湧昇漁場を形成している海域もある。
このような湧昇海域は、全海洋の僅か0.1%程度の面積にも拘わらず、全魚類生産の約半分を占めると見積もられており、湧昇の大きな生物生産ポテンシャルが伺える。
このような自然の湧昇現象による生物生産効果や熱輸送に着目し、有用生物の生産や深層水と表層水の温度差による電力、淡水生産等を目的に、ポンプなどの人工的な手段を用いて、深層水を揚水させることを人工湧昇と呼んでいる。我が国では、海洋科学技術センターが1970年代ごろから研究に着手し、洋上・浅海域・陸上の3つの利用形態を概念化した。その中の洋上型は世界初の海域肥沃化実験(1989-90)として富山湾で行われ、陸上型は、現在高知県および富山県で稼働中である。
また、海域肥沃化の観点では、ポンプで深層水を汲み揚げる方式の他に、海底に人工構造物を設置し、上昇流を発生させ、深層水を表層に湧出させる方式もあり、広義ではこれらも含めて人工湧昇と呼んでいる。
参考文献
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中島、豊田;深層水人工湧昇、月刊海洋Vol.21、No.10、p618-625(1989)
高橋;海と地球環境(日本海洋学会編)、東京大学出版会、p267-273(1991)
高橋 正征著;海にねむる資源が地球を救う、あすなろ書房、p106-112(1991)
佐々木忠義編;海と人間、岩波書店、p182-186(1997)
中島敏光;海洋深層水利用研究会ニュース、第2巻、第2号、p2-4(1998)
高橋、鈴木;海洋と生物と人類[11]、海洋と生物94、Vol.16、No.5、p336-344(1994)
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