育て甲斐のある芽を発掘して育てたい      会長 高橋 正征



会長  1989年に高知県室戸市に日本初の海洋深層水取水管が敷設されて海洋深層水の陸上への揚水が始まり、7年後の1996年に海洋深層水を使った飲食品が市場に出ました。以来、飲食物、化粧品、入浴剤などを中心にして、様々な商品が開発されました。その多くは、海洋深層水が含むミネラル成分、栄養塩類、清浄性などの利用でした。深層水風呂も各地で人々の関心をひきました。また一部では、海洋深層水の低水温と清浄性を利用して、冷水性魚介類の飼育・養殖や蓄養なども試みられています。
 最近、以上とは違う海洋深層水の利活用が注目されます。一つは、北海道羅臼町のケースで、海洋深層水の低水温と清浄性を漁獲後の水産物の安全管理に利用している例です。しばらく前になりますがイクラなどの水産物のO157汚染が問題になり、それを防ぐために低温と清浄な環境での水産物の取り扱いの必要性が認識されました。そこで、例えば定置網で漁獲されたサケは、直ちに海洋深層水を満たした船倉に収容し、必要があれば氷を入れて温度を下げ、港での陸揚げとその後のせりも低温で清浄な海洋深層水で冷やした清浄環境下で行なうことで汚染を回避しています。
 二つ目は、富山県入善町の例です。入善町では、レトルトご飯を生産する工場が海洋深層水の取水施設の近くに造られ、5℃の海洋深層水で工場を冷房して95%の電力利用量削減を実現しました。さらに、冷房で16℃に温まった海洋深層水はアワビの養殖に回して、加温の油代の大幅削減を実現しました。養殖廃液は、培養槽に導いて海藻培養に使っています。見事な資源の多段利用です。

 以上、二つの例は海洋深層水資源の新しい事業利用の芽生えです。海洋深層水の資源利用は、こうした芽を育てさらに大きな利用へと発展させていく段階にきています。海洋深層水利用学会は、芽生えが多くのヒトの眼に触れるように、また、芽生えを育てる環境を支え、より多くの芽が大きく育つようにしたいと考えています。

2010年10月
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