海洋深層水利用学会
会員各位
放射性物質の海域流出による海洋深層水への影響について
2011年3月11日に発生した福島第一原子力発電所の事故により、周辺海域に放射性物質を含む大量の汚染水が流出した。海水そのものを資源として利用することを目指す本学会としてはたいへん遺憾であり、関係機関には今後二度とこのような事態が起こらぬよう万全の対策をとることを強く望む。
しかしながら、このような状況下においても、以下に示す理由から、放射性物質の海洋深層水への影響は表層水に比べてはるかに小さいと考える。
海洋には「移流」と「拡散」という2つの物理現象がある。移流には、黒潮などの表層海流の他に、熱塩循環によって生じる中・深層海流がある。海洋深層水はこの中・深層海流によって運ばれてくる海水であるので、基本的に表層の海水とは異なる起源を持つ。また拡散は、流れの中の乱れ成分(渦なども大きな乱れの原因)や波浪による乱れによって海水中に含まれる物質の分布が広がり、その分濃度が低下するという現象である。
海面に流出した放射性物質は、表層海流と表層の拡散によって初期段階で濃度がかなり低下すると考えられる。また海洋深層水は上記のように表層海水とは違った起源を持つ海水なので、もともと天然の海水中に普遍的に存在するごく微量の放射性物質以外はほとんど含まれていない。したがって、表層海水中に流出した放射性物質が海洋深層水に影響を与える可能性は極めて小さい。また、日本各地で取水されている海洋深層水の多くは、およそ100年もしくはそれ以前に表層から深層に沈んだ海水が大部分を占めていて、最近の活発な人間活動の影響は極めて小さい。
ただし、植物プランクトンなどと比べてサイズと比重が大きく、沈降速度の大きな沈降粒子(動物プランクトンの糞粒など)に放射性物質が付着した場合には、急速に沈降し、中・深層での移流や拡散によってたまたま海洋深層水取水口付近に到達する可能性は否定できず、また放射性物質の海洋生態系における挙動についても十分解明されていないことから、念のために向こう暫くの期間は定期的に放射性物質のモニタリングを実施して安全性を確認するとともに、今後時間をかけて研究を進める必要がある。
2011年12月1日
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